BC5世紀〜3世紀に成立したとされる旧約聖書「ヨブ記」のユングによる心理学的考察。1952年に発表された。内容は専門家向け。
「ヨブ記」は聖書のなかでも多くの人の関心を惹きつけてきた文書の1つといえる。義人ヨブに対し、サタンが神への疑念を投げかけ、彼は神から一見理不尽ともとれる仕打ちを受ける。神ヤハウェとの確執を描きつつも、信じ抜こうとするヨブの姿はドラマティックであり、展開としても魅力に溢れている。
ユングは心理学者としての立ち位置から、ヨブにとって圧倒的な存在であるヤハウェの二律背反性を指摘する。それに加え、のちの聖書外典『知恵の書』や時代背景をもとにし、「神の霊」たる女性や、それ以前から自立して神と関係する女性ソフィアのプネウマ的な側面を「ヨブ記」作中に指摘している。(このことを後世にみられる「マリアの被昇天」へ照応させてもいる)
その背後に時代的な女性原理による背景を見出されるものの、ヤハウェイストは「完全主義」のまま、旧約聖書から新訳聖書へと続いていったとされる。(ただし、サタンは天から追放され、ヤハウェは“明るい側面”との同一化によって「善の神」「愛の父」となる)
牧師の息子でもあり、心理学者でもあったユングの宗教的な感覚、個人的体験も反映された独創的な論考。
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