アメリカの精神科医・社会心理学者であり、新フロイト派に位置づけられます。「精神医学とは対人関係の学である」という考えをもとに対人関係論を生み出したほか、統合失調症の治療的実践のなかで理論的にも優れた枠組みを提示しました。
また、WHOなど精神保健の国際化、操作的診断基準を導入したことによって現代精神医療の基礎を築いた人物です。
生い立ち
1892年、アメリカのニューヨーク州の寒村に父ティモシー・サリヴァン(当時35歳)、母エラ・メイ・スタック・サリヴァン(当時39歳)との間に生まれました。アイルランド系移民3世の両親の間では2人の男子が夭折しており、一人っ子として事実上育てられます。母親は彼をかわいがって育てたそうです。
しかし、1894年、母親は精神的な不調から2歳半頃のハリーの前からいなくなってしまいます。父ティモシーが不況最中に家を購入したことがきっかけとなり、半狂乱し、精神的破綻を起こしたといわれています。引っ越したのちも父は一日中農場で働くことが多く、ハリーへの影響が薄かったとみられます。母方叔母のマーガレットが時折、家に手伝いに入るほかは2歳半頃~4歳頃まで祖母の厳しい躾のもとで過ごしたそうです。
5歳の年に小学校に入学しますが、1マイル半先の学校へ通学し、寒村では親密に付き合った友人は多くありませんでした。親しい友人ができたのは8歳頃。13歳のクレランスと友情を深めるようになります。性格を含めて似つかわしくない2人だったようですが、お互いに一人っ子で打ち明け手がいなかったようです。この前思春期以降へと続く関係性の経験から、ハリーは成人後の精神安定に重要な思春期の関係性である「チャムシップ」に通ずる経験を得たとみられています。
その後、16歳でハイスクールを卒業しますが、コーネル大学入学してから精神的に孤独に陥ります。寄宿舎での悪党な学生とのいさかいがあり、入院や停学となっています。
病院臨床の実践と社会的活動
1911年、あらためてシカゴ医学校に入学。1917年に卒業。当時、第一次世界大戦が起きており、陸軍を志願します。
大戦後の1921年、29歳頃からワシントンのセント・エリザベス病院で精神神経科医となりました。この頃から戦後の兵士の心理的ストレスのパターンを観察し、予防精神医学に関心をもつようになりました。(スクリーニングの発布を行い、のちのDSMの原型となります)
その後、シェパード病院にて統合失調症の治療に精力的に取り組みます。当時、治療困難といわれていた病ですが、男子棟を受けもち、スタッフも全員男性といった体制を組んでいます。同性による同級社会を作ったとされ、これを彼は「社会的治癒」と表現する考えのもとに行いました。
39歳でニューヨークで開業したのち、「ホワイト財団」が設立・認可され、教育と研究に力を尽くします。ワシントンで精神医学校を設立しました。この頃、ホーナイ,K.やフロム,E.らとも交流があり、「新フロイト派」と呼ばれるようになりました。
1942年には「大統領令」による戦時情報局の設立に関わっています。
1948年に世界精神衛生連盟(WFMH)を創立するための国際会議に参加するために旅立ちますが、翌年の1949年の1月に特使として滞在していたパリで亡くなります。
人物像
母親の溺愛の一方、両極端さも感じていたようです。また、躾の厳しい祖母、支えてくれた叔母の存在など女性の影響が強く、父の影の薄さも指摘されることがあります。
思春期の同性との関係性を重視したこともあり、同性愛という指摘がありましたが、男性精神科医からはむしろ敬遠され、女性の擁護者や話し相手の方が多かったようです。

シカゴ時代には不安と戦うためにアルコールを用いていた。最晩年には重い病気を背負い、狭心症の痛みを抑えるためにも飲んでいたとみられている。
統合失調症の緊張型ともいえる病を経験し、天才ともいわれるサリヴァンですが、浪費癖や同僚からの多額の借金などもあり、開業後に破産したりもしています。
しかし、亡くなるまでに多くの人患者を精力的に担当しており、病院臨床や治療論の発展に大きな功績を残しました。
サリヴァンの主な理論
生前に公刊した本は『現代精神医学の概念』のみのであり、死後に出版された多くは講義録です。極めて実践家であったかがうかがわれます。
自己についての基本的なとらえ方
| 自己組織 | 自己を周囲の重要人物の関係から生成発展を繰り返すダイナミックな構造体ととらえる。食欲・睡眠といった満足欲求の他、重要な他者からの承認といった心理的・社会的な対人安全保障感を目標として設定される。 |
| 選択的注意 選択的非注意と人格残余部 | 重要な他者から排斥されたものは選択的非注意として注意の外に置かれる。不承認や不安は自己組織の外側に解離し、統合されなかった人格残余部となる。 |
| 自己組織の破綻 | 自己組織が歪む、破綻をきたすことにより、発症となる。 |
発達段階
| プロトタクシス | 幼少期の未熟な認知の段階に見られる非対人的で断片的な体験様式。対象の知覚・体験がその場限りであり、経験の連続性やパターン化がほぼ存在しない。自己と他者の区別が曖昧で、体験は一様となっているため、外界の認知は非常に限定的となっている。 |
| パラタクシス | 一様な体験世界から特徴的なパターンを見いだして対象を分別する。象徴を用いて体験世界をつながりのあるものとして組織化する段階にある体験様式。自己の知覚と経験が一致しておらず。「転移」「投影」などの防衛機制によって感情的なコミュニケーションを歪める。このパラタクシス的な対人関係を意識することが治療の第一関門と考えられている。 |
| シンタクシス | 現実的・適応的な体験様式。現実検討力、共感性が発達しており、外界にコミュニケーションをとりながら自分を適応させられる。 |
