統合失調症の精神医学史

統合失調症をはじめとする精神病の記載は古代からありますが、精神医学においては18世紀後半〜19世紀初頭にかけてそれらは体系的に形成され、研究が進められていきました。

なかでも以下に記載するドイツ精神医学は隣国フランスの精神医学者らの影響も受けつつ、当疾患に対し、現代に通ずる理論的な枠組みを整備してきています。

1852年フランスのベネディクト,B.A.が公式に統合失調症を初記載。名称を「早発性痴呆」とする。
1871年ドイツのヘッカー,H.が「破瓜病」を提唱する。
1874年ドイツのカールバウム,K.L.が「緊張病」を提唱する。
1899年ドイツのクレペリン,E.が「破瓜病」「緊張病」に「妄想病」を加えたものを「早発性痴呆」とまとめる。「躁うつ病」との2つを精神病として分類。
1911年スイスのブロイラー,E.が必ずしも早発(若年時に発症)するとは限らず、痴呆にも至らないと主張する。一次症状を「連合の弛緩(個々の観念や考えはあるが、バラバラになった状態)」と考え、「早発性痴呆」を「精神分裂病」と改名。それまでの疾患概念が変化していく。

その後、クロルプロマジンの薬効の発見、生物学的な研究の進展などもありましたが、大戦をはさんでの1970年代までは精神科医療の領域でも外科的処置としてロボトミー(脳部位である前頭葉の切断手術)が行われていたという史実も残されています。

研究者、および主要な概念

・ブロイラーの指摘した特性 (いわゆる「4A」)

連合弛緩
Association loosening
思考、観念のまとまりのなさ
自閉
Autism
外界との接触を避け、殻に閉じこもる傾向
両価性
Ambivalence
同一の対象に相反する感情を同時に抱く
感情の障害
Affect disturbances
無関心が進行し、感情鈍麻となる。逆に急激に変化したりといった不安定な状態

・ヤスパース,K.
〇疾患による症状を心理的に追体験できるときを「静的了解」とする。
〇さらにそこからの動機の発生との関連が分かるときを「発生的了解」とする。
⇒もし、この2つの「了解」ができずに「何らかの病的過程による」ものという説明しかできないものは、統合失調症として区別した。

・シュナイダー,K.
他疾患とは異なる統合失調症の症状の特徴をリスト化した。主に感情鈍麻などの「陰性症状」より、幻覚·妄想などの「陽性症状」を扱っており、「シュナイダーの1級症状」として指標的なものとなる。

考想化声自分の考えが声となる
対話形式の幻聴2人以上が主として自分のことについて話しているような幻聴
行動を批判、意見する幻聴批判や注意、命令などの幻聴
身体への被影響体験身体に電波をかけられる、などの異常体験
思考奪取自分の考えが抜き取られる
思考への干渉他者の思考を押しつけられ、自分の思考に影響を与えてくる
考想伝搬自分の考えが筒抜けになり、周りへ伝わる
妄想知覚知覚したものへの不思議な意味づけ、関連づけ

精神医学と心理社会的な支援
適切な治療があれば、①前駆期②急性期③消耗期④回復期、の4つの段階を辿るとされています。

現代においては、服薬治療に加えて、入院を減らし、地域生活での心理社会的なサポートへ支援の輪を広げることが目指されており、世界的にも主流となっています。

また、脳の働きや変化に焦点が当てられやすい当疾患ですが、カウンセリングでストレスや気持ちの整理、表現の仕方に取り組んだり、SSTを通してコミュニケーションを円滑に行うためのトレーニングをしたりすることも大切な支援となります。